セント・パンクラス駅の誕生
セント・パンクラス駅(St Pancras International)はイギリスの数ある駅の中で、最も立派で豪華な駅と言えるでしょう。高い尖塔を持つゴシック様式の駅舎が、宮殿のようにそびえ立っています。ビクトリア王朝時代に全盛期を迎えた、大英帝国の繁栄を象徴するような駅です。
セント・パンクラス駅は1868年、当時の主要鉄道会社「ミドランド鉄道」によってキングス・クロス駅のすぐ隣に建設されます。ミドランド鉄道はイングランド北部方面とロンドンを結ぶ鉄道で、セント・パンクラス駅は南側のターミナル駅にあたります。当時のミドランド鉄道は、ライバル会社のグレート・ノーザン鉄道と激しく競り合っていました。キングス・クロス駅は、グレート・ノーザン鉄道のターミナル駅として1852年に開業しています。
セント・パンクラス駅の建設には、豪華な駅を建設することで自社の権威を高めようという意図が秘められていました。駅のすぐ隣りに駅を建設するというのは合理性に反していると言えなくもないですが、当時の鉄道会社同士の競争の激しさが伺えます。
ゴシック様式の壮大な駅舎は、当時の有名な建築家であるギルバート・スコットが設計したものです。駅舎内には「ミドランド・グランド・ホテル」(Midland Grand Hotel)というホテルも建設されます。この「ミドランド・グランド・ホテル」は1935年まで営業を継続しています。
受難の時代
第二次世界大戦中、セント・パンクラス駅はドイツ軍による爆撃を受け、駅舎の一部が損傷します。
そして開業100周年となる1960年代には、取り壊しの動きも起こります。しかし市民の強い反対により取り壊しは撤回され、現状のまま補強をして維持されることになりました。その後セント・パンクラス駅はイングランド北部方面への発着駅として、細々と営業を続けます。
華麗なる復活
紆余曲折を経たセント・パンクラス駅ですが、2000年代に入ると国際高速列車「ユーロスター」のターミナル駅として華麗に復活を遂げます。元々ユーロスターはウォータールー駅から発着していたのですが、高速新線(High Speed 1)の開業に伴い、2007年11月14日以降はセント・パンクラス駅からユーロスターの全列車が発着するようになります。
ユーロスターの発着に伴い、駅全体の大規模なモデルチェンジが総予算8億ポンドをかけて実施されました。そして鉄道会社のオフィスとして利用されていた「ミドランド・グランド・ホテル」のスペースは、5つ星ホテル「セント・パンクラス ルネッサンス ロンドン ホテル」(St. Pancras Renaissance London Hotel)として生まれ変わり、2011年3月に営業を開始しました。現在は広大な駅構内にショッピングセンターやバスセンターなども建設されるなど、一大商業エリアの様相を呈しています。